格子試験体をFDMプリンターで出力しはじめたのは、もう三年ほど前のことになる。最初の一年は、出力するたびに微妙に違う結果が出て、どこに原因があるのかを突き止めることにほとんどの時間を費やしていた。積層方向を変えただけで圧縮剛性が二割近く変わったり、サポートを除去するときに格子の節点がもげたり、養生を怠った試験体が一週間後に反っていたり——そういった失敗の記録が、今のラボのノートに何ページも残っている。この記事は、そうした遠回りの経験から蒸留した、格子試験体に特化した設定と考え方の覚え書きだ。汎用的な「3Dプリントのコツ」ではなく、力学試験を前提とした試験体の出力という、かなり限定された文脈の話として読んでほしい。

なぜ格子試験体はFDM出力が難しいのか

格子構造は、細いストラット(支柱)が三次元的に交差したものだ。それ自体はシンプルな概念なのだが、FDMという「層を積み上げる」製法との相性は、見た目よりずっと複雑になる。ストラットの傾斜角度によっては、一本一本がほとんどブリッジ状態で出力されることになる。ノズルが空中に樹脂を吐出しながら前進するわけで、冷却が追いつかなければ垂れ下がり、逆に急冷すれば層間の結合が弱くなる。さらに、格子の節点——ストラットが複数交わる部分——は局所的に樹脂が集中する。熱がこもりやすく、収縮が周囲と異なるため、試験体全体の残留応力の分布が予測しにくくなる。これらは「格子だから起きる」問題であって、単純なブロック試験体の出力経験だけでは見えてこない。

積層方向の選択——「どこで折れてほしいか」から逆算する

積層方向は、試験体の力学特性に直接影響する。うちのラボでは原則として、想定する主荷重方向に対して積層面が垂直になる向きを避けている。つまり、圧縮試験なら荷重軸に対して積層面を平行に寝かせる向き(フラット積層)ではなく、荷重軸に沿って積み上がる向き(アップライト積層)を選ぶことが多い。理由は単純で、FDM試験体の最弱部は層間界面であり、その界面が主応力面と一致すると、ストラット本来の強度を引き出す前に層間剥離で終わってしまうからだ。ただしアップライト積層にすると出力時間が伸び、サポートの問題も複雑になる。試験の目的——破壊モードを見たいのか、弾性領域の剛性を見たいのか——によって方針を変える必要があり、そこに一律の正解はない。設定として記録しているのは、PLAの場合:積層厚0.15 mm、ノズル径0.4 mm、充填率100%(外壁のみ、インフィルではなく格子STL自体を実体として扱う)というセットだ。

サポートの設計——除去で壊さないための考え方

格子試験体でサポートを使うとき、最も避けたいのはストラットの表面にサポートが密着しすぎることだ。スライサーのサポートZ距離をデフォルトの0.2 mmから0.3〜0.35 mmに広げると、除去時の力が節点に伝わりにくくなる。ただし広げすぎると表面品質が落ち、そこが応力集中点になりうる。うちでは現在0.3 mmを標準値にしている。もうひとつ重要なのが、サポートのXY距離だ。これを0.5 mm以上確保することで、ストラット側面へのサポートの食い込みを防いでいる。除去作業は必ず出力直後——材料がまだわずかに柔らかい状態——に行う。PLAであれば出力直後30分以内、ABSやASAは少し時間をおいて冷却してから慎重に、というのが経験則だ。ピンセットよりも、先端を丸めた竹串を使う方が節点を傷つけにくいという、些細だが実際に効く発見もあった。

失敗例の記録——ある格子試験体が全滅した日のこと

二年前の十一月、圧縮試験用のBCCZ格子(ボディセンタード+垂直ストラット)を十二体まとめて出力した日のことを今でも覚えている。スライサーの設定を変えたまま保存し忘れており、サポートのZ距離が0.1 mmになっていた。出力自体は問題なく完了したが、サポート除去の段階でストラットが節点ごとボロボロと折れ、十二体のうち試験に使えたのは三体だった。あの日の失敗が、設定をバージョン管理するという習慣を作らせた。現在はGitで管理した設定ファイル(Cura profile)をプロジェクトごとのフォルダに保存し、出力のたびにコミットメッセージに使用フィラメントのロット番号と環境温度を記録している。些細に思えるが、三ヶ月後に同じ試験体を追加出力するとき、この記録があるかどうかで再現性が大きく変わる。

養生条件——出力後の環境が試験結果を左右する

FDMで出力したPLA試験体は、出力直後から緩やかに変形しうる。特に残留応力が解放される最初の24〜48時間が重要で、この間の温度と湿度の管理が試験体の最終形状を決める。うちのラボでは、出力後の試験体を温湿度管理されたデシケータ(温度23±2℃、湿度50±5%RH)に最低48時間静置してから寸法測定と試験を行うことをルールにしている。これはISO 1110やASTM D618のコンディショニング規定を参考に決めた値だ。冬場に暖房の効いた部屋で出力し、翌朝冷えた実験室で測定するというサイクルを続けていた時期に、繰り返し精度が悪化したことがあった。原因を追うのに一ヶ月かかったが、結局は試験体の熱収縮だった。環境制御は地味だが、再現性の土台になる。

再現性を高めるための具体的な設定値の公開

以下は現在うちのラボで使っているPLA格子試験体の標準設定だ。機種はBambu Lab X1 Carbon、フィラメントはPolymaker PolyLite PLA(グレー)。ノズル温度215℃、ベッド温度55℃、積層厚0.15 mm、印刷速度外壁50 mm/s・内壁80 mm/s、冷却ファン出力70%(ただしノズル周辺温度が低い冬季は60%に落とす)、サポートZ距離0.30 mm、サポートXY距離0.50 mm、サポート密度15%(ラインパターン)。格子STLはnTopologyで生成し、ストラット径1.2 mmのBCCZ格子を基本単位セル10 mm角で設計している。この設定で繰り返し出力した場合の質量のばらつきは±1.5%以内に収まっており、圧縮剛性のCV値は概ね5〜8%程度だ。完璧ではないが、これが今の実力値だと思っている。

これからやろうとしていること

現時点での課題は二つある。ひとつは、フィラメントの吸湿管理だ。PLAは湿気を吸うと出力中に気泡が入り、ストラットの断面積が不均一になる。現在はドライボックスで保管しているが、開封からの使用可能時間を定量的に評価できていない。もうひとつは、出力後の後処理——特にアセトン蒸気処理のようなことがPLAでできないか——の検討だ。ABSなら表面を均すことができるが、PLAは同じ手が使えない。熱処理(アニーリング)については60〜70℃での試行を始めており、結晶化度が上がることで剛性が数%向上するデータが出てきている。この話はもう少しデータが揃ったら別の記事にまとめるつもりだ。

格子試験体の出力は、派手な技術ではない。地味な設定の積み重ねと、失敗の記録を怠らないことが、最終的に試験結果の信頼性を作る。この覚え書きが、同じ問題にぶつかっている誰かの時間を少し節約できれば、それで十分だと思っている。